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続編 第四章 相思相愛1

last update Last Updated: 2025-01-19 18:09:47

続編

第四章 相思相愛

「だって。大樹があまりにも有名になるから……忘れられなかったの」

紗代さんは、視線を落とし泣きそうな顔をした。

外で会うと雑誌に万が一撮られたらややこしいことになるからと、家に来てもらったのだけど、やはり話はこじれた。

この場所に私もいていいのかと迷ったけれど、大くんは隠しごとはしたくないからそばにいてくれと言った。

紗代さんは、ハキハキ話すタイプの女性で予想以上に美人だった。胸が大きくてスタイルがいい。大くんは本当に私のような小さな胸の女でいいのだろうか。

「大樹と会えなくなるなんて嫌なの!」

「……紗代、お前だって結婚するんだろ?」

コクリとうなずく。

え……幸せな時なんじゃないの?

それってマリッジブルーなんじゃなくて?

絶対マリッジブルーでしょ。そんなことを私は思っているけれど二人の会話はあまりにも迫力がありすぎて口に出せなかった。黙ってみているしかできない。

「お互いに、幸せになろう」

大くんが落とすように言っているが彼女は涙をポロポロと流す。

「…………大樹には、どんな男性も勝てないよ」

女って複雑な生き物だ。

紗代さんは結婚する立場でありながら、大くんとも繋がっていたかったのかもしれない。

二人が話を始めてもうすぐ一時間。

状況が変わらないので遠慮しながらもさすがに私は、思わず口を開いた。

「紗代さん」

「何よ」

めちゃくちゃ睨まれたのでビクッとしたけれど私は握りこぶしを作って発言する。

「大くんと過去に付き合っていて、それからも二人は友達関係だったのはわかりますが……。今はもう、私の結婚相手なんです。二人きりで会うのは勘弁してください」

冷静な口調で言うと、紗代さんはさらに機嫌の悪そうな表情に変わった。

迫力満点で思わずびっくりしてしまう。

「……大樹を手に入れて満足そうね。大人しそうな顔をして偉そうなこと言わないで!」

「おい、紗代」

「わかったわよ。大樹が私に未練がないって理解したし。もう二人きりで会わないから」

ふてくされた様子で口を尖らせた。

結婚するのに大くんとチャンスがあれば……と、思っていたところがすごいと思う。

それほど大くんは素敵な人なのかもしれない。

しばらくしてイライラが収まったようで……。
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